「ありがとう」ボート |
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高校生の娘の部活動最後の大会が終わった。思うような成績は残せなかったが、ここまで音を上げずによく頑張ってきたと思う。早朝から練習を一緒に頑張ってきたすてきな仲間や、熱い心でご指導いただいた先生方、赴任先の鳥取からはるばる通ってきてくださったコーチ…。支えてくださった方々に心から感謝している。 娘が高校で出会ったボートという部活動のおかげで、親の私も新鮮な感動をたくさん味わうことができた。全面結氷した湖の底から恐ろしげに響く「ゴー」という音。真夏の太陽を容赦なく照り返すギラギラした湖面。静かに水鳥を包む姿。懸命に漕ぐ子どもたちを横目で眺めつつ、湖畔をウオーキングしながら、四季折々の諏訪湖の姿を五感で受け取った。 保護者向けの体験乗艇では、思うように漕げず大変だったが、自分の力で進む感触は何ともさわやかだった。毎年、新入生全員を対象に行われる歓迎乗艇の後、入部を希望する子どもたちの気持ちが分かる気がした。 四人が漕ぎ手となる艇は、もう一人乗るコックス(舵手)の指示でオールを動かす。動作を止めるときには「ありがとう」と声を掛ける。慣れないオールを握って四苦八苦している艇上で何度も「ありがとう」と言われると、その意ではないと分かっていても、涙腺が刺激されて目がかすみそうになった。 この「ありがとう」は、同じクルー仲間にだけ発せられるものではない。大会などでスタート時「○○高校」と競技役員の声がスピーカーから流れると、ほどなくして「ありがとう」と続く。「オーケイ」でも「ストップ」でも「よし」でもなく「ありがとう」。何て気持ちのいい競技なのかと、そのたびに心が洗われる思いがした。
(田中貴美枝・諏訪市)
<2008/06/21付 信濃毎日新聞「私の声」より>
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