Dear Coxwain!! コックスの役割としてよく例えられるのはF1ドライバーであろう。 (エンジン:漕手,シャシー:艇,タイヤ:オール??) 「舵手」の名の通り、操舵は大事な役目だが、それ以上に重要なのは、クルーをまとめ ることである。艇の推進力にならないポジションが、何故それほど重要なのか? それ はコックスがクルーの頭脳を司るからである。まさにコックスは「言葉」によってクルー のパワーを引き出すのだといってよい。それほどにコックスの駆け引きは重要な要素で あり、僅差のレースでは勝敗を決める大きなポイントになる。 ここではとかく軽視されがちなコックスのテクニックやノウハウについて触れてみたい。 よいコックスとは? ◎漕手の力を十二分に発揮させられること 状況判断の正確さ 練習でもレースでも状況に応じた判断が下せるか。 ・クルーの体調,コンディション,安全確保etc. 効率的に艇を進めるための知識 コーチ,文献,ビデオ,など。探せばまだまだある。 レベルの高いナマの漕ぎを見るのがベスト 漕ぎのイメージを表現するための語彙(ボキャブラリー)を増やす。 →実際にイベントとして使ってみる。 →自分のクルーに対して、良く効くイベントと効かないイベントを知っておく 漕ぎの善し悪しを見分ける目(必ずしも目だけではない) 外見から(自他問わず)クルーの実力を見分けられるか? 自分のクルーの艇速を敏感に感じ取れるか? 1本1本のストロークを自分なりに評価していくつもりで。 漕手を「やる気」にさせる言葉 大事なのは「ポジティブな表現」。この一言に尽きる。 →「水中鈍い!」というようなネガティブな表現は避け、「つかみを合わせて 水中を盛り上げよう」というように漕手の「やる気」を呼び起こすような明 確で指針を踏まえた前向きな言葉を使う。 指摘したポイントが少しでも改善されたら、それを確実に漕手に伝えること。 →少しでも艇速が「伸びた」と思ったら声にしてみよう。やる気がでる! →多少調子が悪くても「伸びてるゾ」とハッタリをかますことも時には必要  但しやりすぎは禁物。この辺のかねあいが難しい。(経験を積むしかない) →クルー内での漕ぎに対するレベル合わせができる。 レースでの駆け引き Hot Heart & Cool Mind 強気な発言に心掛ける。(自信に満ちたコックスは強そうに見えるものだ) プレッシャーは相手に対してかけるもの。ビビらずに自信を持て! 相手との艇差:リードしている時は正確に。 出られている時は少な目に。 イベントの基本 ※イベント:狭義では「スパート」や「強く」などのレースで使う水中強度を上げる ための号令を指すことが多い。広義ではクルーをまとめるためにコックスが発する言 葉のすべてを指し、水中強度だけでなく、技術的ポイントのチェック、クルーの心理 的高揚を図るための手段としても非常に有効である。 ・リードしている時 相手のイベントに注意する。水中強度のイベントは、相手のイベントの後半か ら入るようにすると、相手が疲れたところから自分達の艇速を伸ばせるので、 リードを広げることができる。本数は相手より少なめにできるようであれば、 漕手が相手に対して心理的優位に立てる。また技術系のイベントは、集中力を キープできるので随時入れて良い。 イベントを入れても相手が詰めて来る時には、相手に並ばれる前に「プラス3 本」等で対応する。なお一度に10本以上のイベントは効きにくい傾向がある ので、この点からも本数は最小限にして、必要に応じて追加するという形を取 るのが好ましい。 ・リードされている時 とにかく相手のイベントの先手をとること。遅れを取ると挽回は困難である。 艇差が開いてしまった場合には、水中と技術のイベントを交互に折り混ぜてリ ズムの立て直しを図りながら、徐々に差を詰める。(水中のイベントだけでは だんだん効かなくなる) 競っていてわずかに出られている時は、早めに勝負をかけること。相手につい ていく状態は、漕手にとっては苦しいものだ。早めに並べば漕手の心理的負担 も減って、「突き放そう」というイベントも決まりやすくなる。 ・競っている時 「詰めてるゾ」「突き放してるゾ」は良く効く。(クルーに自信を持たせる) 相手の艇速が少しでも鈍ったら、遠慮なくイベントを入れる。相手に対するプ レッシャーと、自分達に対する励ましを込めて、「○○落ちたゾ!一気に抜こ う。強く押して5本!!」 これは効く。 ・スパート 上記の原則を更に徹底すること。特にリードされている場合、相手に先にスパ ートに入られると逆転は殆ど不可能である。(よっぽどの自信があれば話は別 だが)。結果が予想できるレースでも、タイムを狙う必要があったり、次のレ ースがすぐにある場合など様々な状況が考えられる。スパートの重要度は、こ れらの状況によって違うので、それをしっかり認識してレースに臨むこと。 レースでも練習でも、大事なのは自分のクルーの漕手をいかに「やる気」にさせるかで ある。(何度も書くようだが…) 自分が漕手になったつもりで、どんなふうに言われ れば「よし、やってやるぞ」という気持ちになれるかを考えれば、コックスの駆け引き はそれほど難しいものではない。 バランス(平衡)感覚 不必要なバランスの崩れが予想される時には対応する。 ただし過度のバランス修正は不可。コックスも体重のかけ方(足の踏ん張り方)でバラ ンスをある程度修正できる。但し上体を左右にずらしての修正は避ける。(漕手のバラ ンス感覚が根本的に狂ってしまう) 必要最小限のラダーワーク ラダーによる方向修正は、艇を止めるブレーキと同じ。従っていかにして舵を切らずに 艇を直進させるかが腕の見せ所である。艇がまっすぐ進まないのは、半分は漕手の責任 である。 「良いコックスは舵を引かず、良い漕手はコックスに舵を引かせない。」 舵は ストローク中に2,3回ほど小さく引く。 →ストローク中はブレードで艇が固定されているため舵を切ってもバランスを 崩さずに済む。(なお、フォワード中に舵を切った方が効きは良いが、艇の バランスを崩さないように切るのは至難の技である。またこれは漕手が「気 持ち良く」漕げる状態を奪うことになるので推奨できない。ただし、スト ローク中とフォワード中で舵の効き方が違うことを理解しておくことは大切 である。) 舵を大きく切って1回で修正しようとするよりは、1本毎にこまめに修正した 方が良い。遠くの目標を定めて慌てずに。(レース中も極端な場合を除いては 思い切りラダーを引かない方が良い。レーン侵害を恐れ過ぎないこと。) →舵角が大きいほど抵抗が大きくなる。またバランスを崩しやすくなる。 ニュートラルの位置は目印のテープに頼らない方がよい。頑なに目印の位置 に頼ろうとするとかえってまっすぐ進まないものだ。 →フォワード中にロープを一旦軽く弛めてから張ると、自然に舵はまっすぐに なる。 以上のノウハウを駆使して、練習時は艇上のコーチとしてクルーをまとめ、レースでは 司令塔として相手との駆け引き、レース展開の組み立てを行う。 細かいことまで書いたが、結局は実際に艇の上で学ぶのが一番の近道だと思う。コック スに対する直接的なコーチングは難しいので、日頃から他のコックスの言葉に耳を傾け、 自分自身のスタイルを確立して欲しい。 <謝辞> 本稿の改訂にあたり、Niftyserveアスリートフォーラムにおきまして特にDabbler氏、 ゴーケン氏より貴重なご意見ご指摘を賜りましたことをここに付記し、感謝の意を表 します。 Yukiya Hirabayashi(YUK):VZM02617@niftyserve.or.jp 以上