1996 インターハイ奮戦記

[はじめに]

96年度のインターハイ漕艇競技は8月7日から4日間、河口湖で開催されました。清陵女子ダブルスカルは惜しくも優勝を逃したものの、県勢女子としては12年ぶりの2位入賞を果たしております。ここに大会経過(奮戦記)をまとめてみました。どうぞお楽しみ下さいませ〜。

[出発日8/5]

 今年の清陵は女子ダブルスカルだけというまことに寂しい選手団であった。選手2人を乗せたESTIMAは河口湖に向けて8/5朝に出発。車には、今年野球部の快進撃を陰で支えたといわれる「魔法の水」がタンク一杯に積まれている。これがあれば百人力..かどうかは知らないが、「優勝できなかった野球部の分も頑張る」と気合いをいれる選手たちであった。(どうか「優勝できない」っていうのがジンクスになりませんように...)
 さて、この女子ダブル、昨年はインターハイに出たものの、レースは3日目で敗退、あげくは「決勝に進出したクルーの召使い」というもっとも屈辱的な経験を持つ2人であった。
しかし今年は違う! 何が違うかって...とにかく春の全国選抜以外は「無敗の女王サマ」なのである。そうなると目標は当然「優勝」ということになるのだが、我が清陵ダブルは謙虚に「いつも一生懸命デス(下鳥サン)。がんばるゾウ(まりりんサン)」と気負ったところもなく、誰からも愛される?魅力溢れる??クルーなのであった。(おっと褒めすぎちまったい..)
 河口湖に到着してまず驚いたのは、とにかく涼しいこと。夏場の爽やかさに馴れきった「信州人」が言うのだから、これは相当な涼しさである。暑い所から来たクルーは大丈夫なのかしらん?と思わず余計な心配をしてしまった。我々のベースキャンプとなった旅館「若富士」は、扇風機しかなかったが、それでも暑さに悩まされないインターハイは初めての経験であった。(去年の米子は暑くてタイヘンだったのヨ...)
 また、噂には聞いていたものの、春からの異常渇水で、とにかく水がない! いつもは水に浮かんでいる桟橋は完全に陸の上で、周りも草ボーボー状態。しかも艇を出すのに桟橋からさらに100m先まで歩かなければならない。レース距離も100m短縮された900mという過去に例のない大会となった。後半の追い上げが得意な清陵クルーとしては、レース距離が短くなるのはあまり歓迎できないのだが、この1ヶ月でスピードには(ピカピカに!)磨きがかかっている。今までのレースでも「ラスト100mでリードされていた」という展開はないので、よほどのことがなければダイジョウブだろう..
新しいデルタの規格艇には少し違和感があるようだが、感じは悪くなさそうなので一安心。

 遠征初日を締め括ったのは河口湖名物のである。大渋滞する見物の車を横目に宿からのんびり歩いて見に行けるのがGOODであった。日も沈んで暗くなり始める頃、我々は花火見物へと繰り出した。同じ宿舎の岡谷南クルーも一緒である。ところが岡谷南の一行はしっかりお洒落して花火見物には万全の体制。一方の清陵はといえば...いやいや詳細は語らないことにしよう。本人たちは「ジャージでも中身がいいから大丈夫」って何が大丈夫なんだ?オマエら...つぶやく私に気づかず、2人はもう道に並ぶ夜店に夢中になっていた。
 結局、花火見物で彼女たちが手に入れたのは、2つの風船ハンマー(35kg&15kg)であった。どうやらクジ引きの5等&ハズレ賞品らしい。それにしてもハンマー片手にキャッキャとはしゃぐ姿はただの山猿..いや、もとい、無邪気な高校生であった。ちなみにジャージと風船ハンマーにときめく出会いは訪れなかったようである。

[レース前日]

 レースの前日というのは、開会式があるため、練習配艇の時間は1時間しかない。しかし華麗なる(!)テクニックにより12分でリギングを終えた彼女たちは、颯爽と出艇していった。「短期集中!けじめある練習」をモットーとする清陵クルーは本日絶好調。隣で見ていた男子ダブルを尻目に、かるーくrate43のダッシュを披露してしまったらしい..
 さて、午後は開会式である。会場の河口湖町の体育館はすでにたくさんの選手でごった返している。ぐるぐると通路を回って中に入ると、彼女たちは既にちゃっかりとお目当てのT工高クルーの真後ろに陣取っているではないか...うーん、さ・す・が・だ...(唖然)
( ここだけのヒミツだが、まどかサンのお気に入りはストロークの「てっちゃん」。まりりんサンのお気に入りが3番の「ひろちゃん」である...て全然秘密になってない?)

追記:[97.11.30]その後の信頼おける情報筋によれば、「てっちゃん」なる人物は、重油の流出で話題となった地域の某電力会社にお勤めとのこと。また「ひろちゃん」は、愛知県の某有名自動車メーカに就職し、若きホープとして今年度の全日本選手権などで多数の目撃情報が寄せられているとのことである。なお、この2名が今なおまどか&まりりんサンのお気に入りかどうかは定かではない....

[レース1日目]>レース記録へ

 いよいよレース。艇にも慣れ、コース感覚もつかめてきている。「調子は?」と聞くと「ばっちりだよ」とのお答え。ま、ダイジョウブだろう。予選の相手は、厳木(佐賀)、猿投農林(愛知)、南稜(埼玉)、山城(京都)である。マークするのはパワーのある猿投と、春の選抜優勝クルーを破った南稜である。特に清陵が春の選抜大会で負けた浦和一女には「勝ち逃げされた」という悔しさがあるだけに、この南稜に勝って(間接的にだが)借りを返したいところである。
 スタートはイマイチだったが、500mで完全に水の空いた展開となる。逆風強いが平均レート36。予選としてはまずまずの出来であった。予選タイムは総合8位。7位までがすべて午前中のコンディションの良い時間帯のタイムであることを考えれば、かなり自信をもって良いだろう、という結論に達し、会場を後にした。
 この日はなんと「長野県クルーすべて予選通過」というオメデタイ日で、天野Tをはじめとする長野県選手団コーチ陣は、こぞって河口湖畔に繰り出したのであった。

[レース2日目]

昨日、圧倒的な強さで勝ちあがった清陵クルーは、本日の特別メニューに心ときめかせて(?)いた。すでに宿のおばちゃんから「割引券」をもらってご機嫌な彼女たちだが、昨日からの二日酔いで調子がイマイチという天野Tは、少し憂鬱な表情である。そう、彼女たちの目的地は「富士急はいらんど」、そして目指すエモノはKing of Coaster "FUJIYAMA" であった。
 さて、こう書くと「インターハイに来て遊んどるんじゃなぁ〜い!」とお怒りの声が聞こえてきそうだが、これは「ブッちぎり予選1位の場合のみ富士急HLツアーご招待」という特別契約なのである。"FUJIYAMA"目指して一生懸命(?)頑張った選手を裏切るのは可哀想ぢゃないですか。ね。
 さて、富士急HLで一行をまず出迎えたのは、King of Coaster "FUJIYAMA"に乗った人々の絶叫であった。既に幾分青ざめた表情の天野Tと私を残して彼女たちは入場口へと一目散に駆け出していた...
いやぁ、それにしてもハードな1日デシタ...

[レース3日目]>レース記録へ

 準々決勝である。相手は横浜商(神奈川)、青森中央(青森)、大村園芸(長崎)、八尾(富山)、そして地元山梨の吉田。2位までが準決勝進出だが、組み合わせはそれほど厳しくない。でも予選と違ってつまらぬ失敗をするとアトがない。マークするのは大村園芸。春の選抜で対戦した時は700mまでリードされていたので、前半のスピードには要注意である。まあ、変にキンチョーしてもしょうがないので、いつもどおり明るくクルーを送り出す。レース時間は初日よりも早いが逆風強い。
 レースは今まで人並みだったスタートがなぜかバッチリ決まり、ここで一気に主導権を握る。300mで水が空き、あとは独走態勢。レース後、彼女たち曰く「(大村園芸が)来るぞ!って思ってたから、かえって集中できたのかなぁ?」。これで本番の勝負強さもバッチリだ。

 さあ、明日は最終日。準決勝、そして決勝である。準決勝の相手は実力派の加茂(岐阜)、宮川(三重)、さらに由利(秋田)、高石(大阪)、そして準々決勝で当たった青森中央である。組み合わせ発表の場に居合わせた某クルーの会話に私は思わず笑ってしまった...

「ねぇねぇ、うちら、またこのスワセイリョーとあたっとるよ。ひょっとしてうちらのこと好きなんかぁ?」
(ん?まあ,そういうことにしておいてやろう..)

「きっとそうだわ。でもうちら、決勝いけるかな?」
(ちょっと難しいんじゃないの?)

「加茂と宮川が競ってるスキを突けばいけるカモ。」
(..って、なにシャレてんじゃ?)

「このスワセイリョーにも勝てる?」
「や、ムリムリ。スワには絶対勝てん!(注:断固とした口調)。」
(うーん、よくわかってるじゃない。エライぞ。頑張って決勝行けよ。)

というわけで本日の教訓。「記録掲示板の前では迂闊にあれこれ喋らない」。誰がどこで何を聞いてるかわかりませんぞ。
 それにしてもこの大会は午後のラフコンディションを想定してレース開始が朝7時と早い。しかし諏訪湖で6時半スタートの経験を持つ清陵クルーにはNo Problemである。ここまで来たらあとは集中力。今夜はよく食べてよく寝よう。なにしろ喰うのと寝るのだけは得意なんだから!
 宿に戻ると食堂の広間がやけに広々としている。そうか、レースが終わって帰るクルーもあるんだ..とセンチメンタルしている間もなく、夕食の話題は下鳥サンのおばあちゃんが作る茅野市宮川産パセリの話で持ちきりとなった..

[レース最終日]>レース記録へ

今年「すごい!」と思ったのは、なんと諏訪から「応援バス」が出るという甲子園並みの待遇であった。しかもバスが出るのは最終日だけというあたりに天野Tの自信と意気込みが感じられる。そしてそれを裏付けるだけの努力を積み重ね、ここまで成長してきた選手には本当に最後までいいレースをして欲しい..それだけである。
 準決勝。さすがにここまでくると気を抜いたレースはできないだろう。たとえ大丈夫と思っていても「決勝に向けて力をセーブして」という小細工は通用しない。実力的には加茂と宮川が他に比べて一歩リードといった感じだが、6月の中日本レガッタでは、清陵は両者に水をあけて勝っている。ここは自信をもって後半勝負だ。
スタートで清陵はやや出遅れるが予想通り互角の勝負。前半は宮川がやや先行し、由利がこれを追って健闘している。清陵はトップと0.4秒差で500mを3位通過。宮川は十分に射程距離内だ。後半安定してハイレート(40)をキープしたこともあって、宮川に1艇身つけてトップでゴール。地力のある加茂も由利をかわして決勝に進出した。好コンディションに恵まれてリズムにもキレが出てきた。後半飛ばしてバテたかな?という心配は不要で、彼女たちの表情にはまだまだ余裕が感じられる。沸き立つ応援団の中には、なんと校長先生の顔も見えるではないか。そんな雰囲気の中で「このままいけば優...」とつい言いかけたが、それは言葉にできなかった。「頂点を極めることの難しさ」を乗り越えるのはこれからである。とにかく今はできることに集中する。それだけだ。

いよいよ決勝。このレースを1年間どれほど待ち望んできたことか。顔ぶれはほぼ予想通り。加茂、宮川の他に十津川(奈良)、喜多方女子(福島)、酒田東(山形)である。この中で十津川は春の選抜大会決勝で顔を合わせている。また酒田東には昨年のインターハイ決勝メンバーが1人残っているが、実力としては加茂、宮川、清陵が3強であろう。レースを前にして風が出てきたのが少し気がかりである。まあ、予選、準々決勝は同じようなコンディションを経験しているから...という安心感はあるのだが、今日はちょっと風が強いようだ。水面の波も高いし...
スタート!観覧席からは遠くて見えないが、清陵クルーは無難なスタートのようだ。やはりスタート付近は波が高く、中継モニターで見ていても時折白い飛沫が上がるのがわかる。レースはどうやら加茂、宮川、清陵が抜け出しトップ争いの様相を呈している。 と、その時であった。清陵艇が一瞬止まったように見えたのである。400m付近で必死に波と闘っているが、ここで完全に先行されて相手を追いかける展開になってしまった。しかし選手は後半の強さに絶対の自信を持っているはず..。
その予想通り500mでの半艇身差を徐々に取り戻し、750mで再びトップ争いに加わった。この時点でのトップは加茂。と、今度は加茂が腹切り(オールを水に引っかけるアクシデント)してスローダウン。3位に転落してしまった。隙をついて宮川と清陵がトップ争いに踊り出る。850mで清陵がわずかの差でトップ! いけるぞ! しかし、ここで再び艇が曲がりブイを叩いてしまう。そして...ラストの3本を無難に漕ぎ切った宮川が一瞬早くゴールに飛び込んでしまった...。
 もちろん誰もが優勝を目指してこの決勝に臨んでいたはずだ。しかしレース後の彼女たちの表情にはどことなく不思議な戸惑いがあるように見えた。今まで相手クルーと競い合うために培ってきたパワーやテクニックが、すべて波や風との闘いに費やされてしまったからだろうか...。それが自然を相手にするスポーツの宿命だといわれても、やはり不完全燃焼的な気持ちは拭いきれないものがある。
 確かにレースはやってみなければわからない。どんなに強いと言われていても、それで優勝が約束されるわけではない。インターハイとは「実力があるだけでは勝てない」不思議なレースである。波にオールを取られたのも、曲がってブイを叩いてしまったのも結局はそれが実力だったということなのだろう。しかし一方でここまでやってこれたという満足感が選手たちの顔にあふれていた。ベストを尽くして臨んだ結果がどうあれ、ここまでやってきたんだという自信と誇り、そして仲間たちへの信頼は何物にも代え難い財産なのだ。

「胸張って諏訪に帰れよ!」という応援団の言葉には、さすがに胸が熱くなった。


「諏訪清陵 涙の2位」
 女子ダブルスカル 0.43秒差 〜波にオールが・・猛追届かず〜
 艇を桟橋につけた清陵ペアは言葉を失い、うつむいたまま。涙がほほを伝わっていた。「全国の2位」にこれほどのショックを受ける光景は珍しい。持ち前の明るさが戻ったのは、かなりの時間がたってからだった。
 「絶対に勝つ気で行った。簡単にはいかない、一番苦しいレースになるけど、苦しくて、いいレースをしたかった」と宮坂はいう。基礎をつくる冬のトレーニングの後、春以降は「重い負荷で短くやるウエートを重視して、瞬発力がついた」と下鳥。もともと後半に強いクルーが、素晴らしいスピードも身に付けていた。
 スタートで出遅れた準決勝は、中間点から鋭く浮上し、後続を引き離してのトップ通過だった。天野監督が「男子のフォアでもあるかないか」という、平均40のピッチ(1分間のストローク)で、しかも男子並みの切れのよさもある漕ぎだった。
 しかし、風と波が出た決勝は苦手のスタートを無難にこなしながら、半ばで「波にオールをひっかけて、どんどん曲がっていった」(宮坂)。「一生懸命直そうとしたけど、直してばかりじゃ置いていかれるし...」(下鳥)
 懸命の追撃で終盤は宮川、加茂との大接戦。ここで先頭の加茂が”腹切り”(オールの空振り)でガクンとスピードが落ちて後退。清陵は2位を確保したものの、宮川には届かなかった。
「2着。立派じゃないか。十分」と天野監督に祝福されたペアは、再び涙にくれたが、漕ぎと同様に気持ちも最後まで強かった。「(フォアではなく)ダブルをやらせてくれた、みんなのために勝ちたかった」と仲間に感謝。「春の選抜で波に負け、負けない漕ぎをやってきたけど、また負けた。結局は相手の方が上だった」と、勝者をたたえても、言い訳や泣き言は出なかった。
<1996/8/11付 信濃毎日新聞より>

いやぁ、ボートって感動ですねぇ。ドラマですねぇ...


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